【連載企画:f4samuraiマガジン④】「ゲームを良くするために、なんでもやる」会社の次世代を担うディレクターの覚悟と挑戦

「世界に、“一番のワクワク”を届ける」をミッションとし、スマートフォン向けゲームの企画・開発・運営を行っているゲーム会社、f4samurai。

秋葉原に拠点を構える同社は、世界観の構築に強みを持ち、『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』(『オルサガ』)をはじめ、『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(『マギレコ』)、『コードギアス 反逆のルルーシュ ロストストーリーズ』などを手掛け、いずれもヒット作として覚えている人も多いだろう。

そんなf4samuraiのゲーム開発はどのようにして行われているか。今回、gamebizでは、そんなf4samuraiの開発環境を、同社マスコットであるエフフォーくんと探る「f4samuraiマガジン」を特集掲載していく。同社がヒット作を輩出するその秘密について探ってみた。






皆さん、こんにちは! f4samurai・エフフォーくんです。

今回は、『コードギアス 反逆のルルーシュ ロストストーリーズ』(以下:ロススト)のディレクターとして活躍中のMuramatsuさんをご紹介します。

ディレクターになるまでの経験やエピソード、ディレクターとして意識していることなどをじっくり語ってもらいました!



第二新卒プランナーから、新規開発ディレクターへ…キャリアのあゆみ


ーー:現在の仕事内容を教えてください。

大学卒業後、新卒で不動産系の会社に入社し営業職をしていました。お客さまとの関係性構築にもやりがいを感じていたものの、「この仕事が本当に自分のやりたいことなのか?」とだんだん疑問を抱くようになり、キャリアを考え直しました。

その結果、もっと自分の好きなことをしようと思い、第二新卒という形でゲーム業界への転職を決めました。

転職先は前職にあたるゲーム開発会社で、パズル系のカジュアルゲーム開発を強みとしていました。プランナーとして入社後、長期運用中タイトルなどで経験をつみ、自社IPで新作を作ることになった際に「ディレクターをやってみないか?」とチャレンジする機会をいただけて。

社長がメインディレクターで、僕はアシスタントディレクターという立場でしたが、初めてディレクションや開発をリードする経験ができ、とてもいい勉強になりました。ただ、そのタイトルは結局ベータ版で頓挫してしまって……。

その後、「次は、カジュアルゲームよりももっと表現の幅があるようなゲームを作りたい」と思い、縁あってf4samuraiに転職したという経緯になります。

ーー:前職でもディレクターされていたんですね。f4samuraiにははじめ、プランナーとして入社したのですか?

そうですね。はじめは『ワンダーグラビティ ~ピノと重力使い~(以下:ワングラ)』の物量プランナー(※アートワークやシナリオのコンセプト・要件決め、監修進行と費用・工数の管理、マーケティングプロモーション・海外展開などを行うプランナーの社内名称。現在は「アシスタントプロデューサー」とも表す)として入社し、クリエイティブまわりの制作進行を中心とした業務にあたっていました。

正直、面接で「物量プランナー」と聞いたときはどんな仕事なのか全然イメージが湧かなくて(笑)。ただ、同時に「将来的に運営ディレクターを目指してもらうことを期待している」というお話もあったので、キャリアアップも視野に入れての転職でしたね。



ーー:入社当初は、具体的にどのような業務をしていましたか?

メインの業務はアートの制作進行で、カードイラストやキャラクターデザインをはじめ、立ち絵や背景デザインの進行管理などを担当していました。グラフィックをメインで見るアートディレクターのような人がいない体制で開発をしていたので、イラストレーターさん・デザイナーさんと開発サイドとのハブ役になっていたような感じですね。

正直に言うと、当時は自分の業務内容と、将来ディレクターになることが直結しているように感じられなくて「この仕事を続けていて、本当にディレクターになれるのか?」と不安になることもありました。

ですが、今振り返ると制作進行業務を通してプロジェクト全体を見る経験が積めていたし、アートワークはユーザーさんがゲームを手に取るかどうかを決める極めて重要なポイントなので、ディレクターを目指すなら熟知している必要があるし、社長の金さんから「絶対にプラスになるから」と言われていた意味がよくわかります。

実際にその後、グラフィックだけでなくゲームフロー全体の進行も任せてもらい、無事にリリースまで持っていくことができました。

ーー:入社当初は、具体的にどのような業務をしていましたか?

『ワングラ』のリリース後もそのまま運営に携わっていたのですが、タイトルがクローズするかもしれないというタイミングに人員変動が重なってしまい、クローズ決定後から実際に運営終了するまでの間、フルで稼働できる企画系のf4samurai社員が僕一人だったんです。

それでも最後までしっかりやり切らないといけないと思って、無我夢中で業務にあたっていた様子を会社が評価してくれたのか「次の新規タイトルでディレクターをやらないか?」と声をかけてもらいました。クローズになってしまったタイトルの企画職だった僕にディレクター挑戦の機会をくれたことには驚きましたし、今でも感謝しています。

ーー:ディレクター就任の声がかかったときはどう思いましたか?

めちゃくちゃ嬉しかったです!……と言いたいところですが、それよりも驚きの方が大きかったですね。ある日、役員に会議室に呼ばれて行ったら「次の案件、Muramatsuさんがディレクターってことで進めているからよろしく」と言われて。やるかやらないかを聞くんじゃないの?って(笑)。

突然の話でポカンとしてしまいましたが、ずっと目指していたポジションだったので、やっぱり嬉しかったですね。



コロナ禍での新規開発…ディレクターとしての覚悟と挑戦

ーー:そして『ロススト』のディレクターを担当することになったんですね。開発で特に大変だったことは何でしたか? 

主にプロジェクト立ち上げ期の話になりますが、幅広い範囲の業務をカバーしなければならなかったことは大変でした。

『ロススト』は2020年の春頃に開発をスタートしていて、それがちょうど新型コロナウイルスの影響が大きい時期と重なっていたんです。リモートワーク移行の対応に追われたり、コミュニケーションが難しくなったりと会社全体がバタバタしていたタイミングでした。

『ロススト』の最初のメンバーは僕を含めて3人だけだったのですが、そんな状況のなか新たに人をアサインする余裕がどうしてもなくて。「やるしかない」の一心で、自分でできる仕事は何でもやっていました。

ーー:具体的にはどんな業務をしていましたか?

まず3DCGモデルやモーション、エフェクトは僕が発注・実装していましたし、ほかにもUnityやポスプロやシェーダーを実際にいじって設定値を決めるといった、テクニカルアーティストの領域の業務もしていました。

「やっていた」と言っても当然わからないことばかりだし、まったくの専門外なので、本を何冊も読んで勉強したり、休みの日にエンジニアさんの家にお邪魔して教えてもらったりしながら、なんとか進めていきました。

イラストに関しても、他プロジェクトのメンバーに手伝ってもらったり、イラストチームのリーダーに「全然進まないんだ、助けてくれ」と頼み込んで描いてもらったり。そうやって周りの力を借りて、なんとかプロジェクトを立ち上げることができました。

仕様やデザインなど、決めなくちゃいけないこともたくさんあって……今思い出しても大変だったなと思いますが、色んな方にすごく助けてもらったので、今となっては皆さんへの感謝の気持ちが大きいですね。


ーー:プロジェクト立ち上げ後、実際の開発はどのように進んでいったのでしょうか?

企画や仕様が固まって、開発の下準備が整ってきたのが2020年末頃でした。そして2021年に入った頃から会社もコロナ禍での業務にだんだん慣れてきて、社内リソースも落ち着いてきたので、少しずつプロジェクトメンバーが増えていきました。チーム分けなどを行って本格的に開発を進められるようになったのはその頃からですね。

その後は、一つひとつの制作をどれだけ丁寧にできるかというクオリティ重視の開発に注力することができたと思います。メンバーはみんな相当忙しかったはずなのですが、非常に意欲高く、前向きに開発に取り組んでくれました。

ーー:f4samuraiのディレクター職は、ゲーム全体のクオリティ担保だけでなく、プロジェクトマネージャー(以下、プロマネ)のような役割も兼務するケースが多いですよね。

そうですね。これはディレクターに限った話ではないのですが、f4samuraiという会社自体、得意な領域があれば自身の職種の域を超えて挑戦させてもらえる風土があります。

僕の場合だと、職種としてはディレクターとメインプランナーを兼務していて、それに加えてメンバーのアサイン調整、予算管理などのプロマネ業務を行っていました。細かい部分でいうと、端末の管理やマーケティングのサポートなどもしていましたね。

総合すると“プロジェクトを良くするための仕事全般をやる人”という感じでしょうか。

ーー:多くの業務を行ってきた中で、達成感を感じた瞬間はいつですか? 

経過報告の役員会で好反応だったときはいつも「よしっ!」と思っていました。役員の3人はプロジェクト開始時からずっと見守ってくれていた存在ですし、ゲームクオリティの判断が的確なので、当然信頼もしていて。

……だけど、そう簡単に褒めてはくれないんですよ(笑)。「うーん……」みたいな反応のときもよくありました。そんな3人が「ここをこうしたらもっと良くなるんじゃない?」と前のめりになってくれたときは、手応えといいますか、確実に進歩ができているという指標や自信になっていたと思います。

 

チームの旗振り役として、ブレない“良さ”の基準を持つ

ーー:ディレクターとして大切にしていることや、こだわりは何ですか? 

一つは、目的やコンセプトを相手に合わせて適切に伝えることです。ディレクターなどリーダー的立ち位置にいる人は旗振り役であることが多いので、目標や目的をメンバーの前で発言する機会が多くあります。ですが、ただ大きすぎるだけの目標を言ってもメンバーにとっては現実味がなく、ピンと来ません。

それよりは、メンバーに合わせて伝える目的の大きさを変えて、一人ひとりにきちんと目的を理解してもらい、具体的に何をしてほしいのかわかってもらうことが大切だと考えています。

もう一つは、ディレクターとして自分が“良い”と思うものはぶらさないことです。それはとても怖いことでもあるのですが、タイトル全体に一本芯を通すという意味でディレクターが一定の姿勢を貫かないと、どんどんゲームの方向性やコンセプトが迷走してしまいます。それはゲームが面白い・面白くない以前に、前提条件として必要になってくるところだと思っています。

また、ディレクターがそのような姿勢でいることは、メンバーに安心してもらうことにも繋がっていると感じます。

仮に出来上がったゲームがヒットしなかったり、ユーザーさんに受け入れられなかったとしたら、それは司令塔であるディレクターの責任です。だから、開発メンバーのみんなには心配をせずに、自身の成果物のクオリティを最大限高めることに思い切り打ち込んでほしいなと考えています。

ーー:人によって”良い”と思う基準が異なることもあると思いますが、Muramatsuさんが思う“良いゲーム”はどういうゲームですか?

個人的には、プレイヤーの感情とゲームシステムのサイクルがしっかり噛み合っているゲームを”良い"と感じることが多いですね。

コレクション欲求をそそるようなキャラクターの見せ方なのであれば、全てのキャラクターを入手していることがそのゲームにおいて有利に働く仕組みになっていたり、冒険して回りたいような世界の提示しているのであれば、隅々まで歩き回ることでより強くなれる仕組みになっていたり、ストーリーが軸のタイトルであれば、プレイヤーが主人公に共感し、主人公の目的がプレイヤーの目的にもなるような誘導がされていたり。

ゲームサイクルの構造がプレイヤーの「こうしたい」という感情の常に一歩先あって、そこに向かって走っていけるようなゲームはやっぱり面白いですよね。

どういったサイクルになるのかはゲームやジャンルによって変わりますが、僕が思う良いゲームは、どれもこのサイクルがとてもきれいにできているなと感じます。


ーー:日々のゲーム開発で行っている工夫を教えてください。 

まず意思決定の方法として、ゲームの仕組みを考えたり、何か新しいことをしたりするときには、やる場合とやらなかった場合それぞれのメリット・デメリットを書き出して検討するようにしています。

ゲーム開発の現場において、何かを選択するときに「絶対こっちだよね」と即座に答えが出せるようなことはほとんどありません。それぞれの選択肢にどのような論点があって、リスクやメリットがどれくらいの割合で存在しているのかということは、頭の中で考えているだけだとハッキリしないことが多いです。なので、一度すべて書き出して俯瞰的に判断できるようにしています。

また、アイデアの出し方とその採択方法にも気を付けています。良いアイデアは、そこから派生アイデアがたくさん生まれるものだと思っていて、逆にそのアイデアによって議論や案の幅が広がることがないとか、採用したとしても活用できる場面が限られていたりする場合はスパッとやめるようにしています。

その基準で開発を進めていると、先ほどお話ししたようなユーザー感情を先導できるゲームシステムに仕上がっていくことが多いと感じています。

ーー:ディレクションの際、客観的な視点と主観的な見方との切り替えはどうしていますか?

物理的な手法でいうと逆さまに持ってプレイしてみたり、全く初見の方にテストプレイをしてもらったりしますね。

ただ、自身の中で主観と客観を切り替えるというのは、僕はあまり意識したことがないかもしれません。視点をうまく切り替えてゲームを見るディレクターもたくさんいると思いますが、僕の場合は、メンバーからの意見に耳を傾けたり、色んな人が提案をしやすいコミュニケーションを心がけたりして、周りの力を借りることでゲームを多角的に見るようにしています。

ただ、さまざまな意見を聞きつつも「自分自身が楽しいと思えるかどうか」という感覚も同じくらい大切にしている気がします。

ーー:理論だけでなく、フィーリングも大切ということでしょうか。

逆にフィーリングに頼らなくなったらダメ、というのが僕の考えですね。感覚は数値化も難しいし、目にも見えないものだからこそ日頃からきちんと自分の感覚が鋭敏かを確かめることが大切で、その確認のためにインプットがあると思っています。

人気作品を面白いと思えるか、逆に厳しいレビューをもらっている作品はどう感じるかなど、自分の感性が世間とズレていないかをチェックして、開発に活かすようにしています。

ディレクター育成と新たな作品づくりが次の挑戦

 ーー:最後に、今後の目標を教えてください。

一つはマネジメント観点で、今後社内でディレクターを目指したいメンバーのサポートをしていきたいと考えています。

特に、デザイナーやエンジニアの中にもやりたい気持ちを持っていて、素養がある方はいると感じるので、仕様書づくりのサポートなどを僕が行いながら、プランナー以外の人にも挑戦できる機会を提供したいですね。

もう一つは、今回の『ロススト』で3DCGなどにも深く関わることができたので、今後もディレクターとして表現力や没入感のある作品を手掛けていきたいと思っています。その上で自社オリジナル作品など、新たな作品作りに携われたら嬉しいです!

ーー:ありがとうございました!






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