拡大続くカプセル玩具市場、大型店舗の展開と大人向け商品の拡充で拡大 “健全化”も一役 業界の雄タカラトミーアーツの大槻氏に聞く取り組みと今後の展望


「ガチャガチャ」が第4次のブームとされるように、カプセル玩具市場の拡大が目覚ましい。日本玩具協会によると、2022年度の市場規模は前年度比35.6%増の610億円に拡大した。今回、バンダイとともにガチャ市場をけん引するタカラトミーアーツのガチャ・キャンディ事業部ガチャ企画部部長の大槻淳氏にインタビューを行い、ガチャ市場における取り組みや拡大要因、今後の展望を聞いた。

 

――:親会社のタカラトミー<7867>の決算報告によると、カプセル玩具(ガチャ)は非常に好調とのことだったのですが、現状はどのように考えていますか?

全体的な印象としては、好調な状態が続いていると感じています。大型のカプセルトイ売場の出店は継続しておりますし、東京おもちゃショーの会場でも海外からのお客様をよくお見掛けしましたが、インバウンドの需要が戻ってきており、通常の収益にプラスオンされています。

 

――:最近では空港や駅でガチャコーナーを見かけることも珍しくなくなりましたね。

はい。そちらに置かせていただいて売上が伸びております。原宿にあるグループ会社のキデイランドは、海外からの来客が増えて売上が伸びていると聞いております。空港や駅に設置しているガチャは、苦しいときもありましたが、徐々に復活してきています。

 

 

――:駅への出店も続けているのでしょうか。

はい。色々な駅や施設に展開させていただいています。羽田空港のターミナル駅などにも設置しておりますし、売場のロケーションは、いまも広がっています。

 

――:コロナ禍以降での取り組みでは他にはどういったことをされたのでしょうか。

大型の売場展開と似ていることかもしれませんが、タイトーさんと協業でアミューズメント施設「タイトーステーション」内に「ガチャステ」という売場を作らせていただいています。お客様からも好評です。

加えて、大型のガチャ売場がどんどん増えている状況ですので、面数の増加に合わせて商品数の需要も増えています。そこで当社からご案内するアイテムを約120%に増やすといったことも行いました。店舗さんのニーズに対応できますし、当社にとっても売上アップにつながります。

 

――:ガチャといえば、昔は子供が買うものでしたが、感覚的には10年くらい前から徐々に購買層が広がっていると感じています。いまも広がり続けているのでしょうか。

そうですね。10 代から 30 代ぐらいまでの男女のお客様でみますと、だいたい 17% ぐらいの方が月に 1 回はガチャを購入されているというアンケート結果が出ています。子供の頃にガチャをよく購入されていて、中学生くらいのときに一度卒業されることが多いのですが、10代後半になって戻ってくる方が1、2割くらいはいらっしゃるそうです。そうした方々が習慣的にガチャを購入いただいていることで市場が広がっていると考えています。

 

――:やはり年齢が上がってくると、子供の頃よりお金をもっていますから客単価もあがりやすいですよね。

はい。売り場で欲しい物を探していただき、気に入っていただいたものを何回も購入される方が多いようですね。そしてそれだけでなく、売場に何度も足を運んでいただいている方が多いですね。

 

――:なるほど。来店頻度も多いと…。プロダクトに関して、これは何年も前からいわれていることですが、クオリティが非常に上がっていると感じます。ガチャとは思えない、と。こうした動きも関係があるのでしょうか。

お客様の年齢層が広がっていくことにあわせて、メーカー側がクオリティを高めたのか、クオリティの高い商品を用意したから大人の方が購入されるようになったのか…。卵と鶏のような話ですが、どちらが先というわけではなくて、相互作用があったと思います。幅広い層の方が買うからどの層に向けても良いものを用意しないといけない、良いものがあるから買おう、といった形で質・量が上がっていったと考えています。

 

――:作っている側としてはやはりクオリティの高いものを、というお考えもあるんでしょうね。

クオリティに関しては、だいぶ頑張っていると思います。力を入れた商品は店頭でもしっかりと反響が来ます。私は現在マネージメント側なので、どちらかというと生産コストを抑えてほしいという気持ちはありますが、しっかりと売れるものであれば、コストが多少掛かってもやむなしと思ってみています(笑)

 

――:クオリティとともに手が込んでいるなと感じる企画が増えてきたと感じますが、どういう形で企画をされているんですか。

弊社の場合ですと、企画担当者がそれぞれ好きなコンテンツや、興味があるものを商品化していくことが多いですね。例えば、先日開催された東京おもちゃショーに合わせて発表した『プラネタリウム100周年記念 ZEISS プロジェクター&ミニチュアモデル』というプラネタリウム機を精巧なミニチュアモデルにした商品も、引き合いがあって企画してもらったわけではなく、担当者が興味をもってどんどん作り込んでいった結果として生まれた商品です。

マネージメント側としては、企画担当者が好きなものをしっかりと作り込めるような体制を整えてきました。本当に好きな人が企画・開発して思いを込めないと買う側にも伝わりません。流行にあわせてなんとなく作った商品というのはやはりお客様には伝わりません。趣味なのか、商売なのか、よくわからないような商品の方がお客様の反応が良い気がします。

 ▲プラネタリウム100周年記念 ZEISS プロジェクター&ミニチュアモデル

 

――:売れ筋商品を教えてください。

オリジナルフィギュアシリーズが好調ですね。相手の肩にもたれるポースをとった「肩ズンFig.」や、顔を隠した「Hide&Seekかくれんぼフィギュア」といったシリーズが非常に好評ですね。あとは、一見ガチャと縁がなさそうな企業とのコラボ商品も人気です。「東京ばな奈 スクイーズマスコット」や、「超熟 Pascoのパン ミニチュアスクイーズ」などが非常にヒットしています。

 

――:なるほど。業界全体の話になりますが、カプセルトイ事業に参入する会社が増える一方で、参入するメーカーも増えていますよね。

参入メーカーさんが増えてるというのは、日々我々も感じているところです。同時に、現在ガチャマシンを作ってるカプセルトイメーカーは、国内では当社とバンダイさんのみですので、マシンと中身を合わせて作っているメーカーとして、市場を健全に育てていかなければならないという使命は非常に感じております。

また合わせて、ガチャというと、昔はどちらかというとなにか怪しいものといいますか、通常のおもちゃとは違うものと捉える方が非常に多かったのかなと思っております。近年は商品の安全性の向上はもちろん、商品クオリティも含めて上がってきており、お客様の求める目も肥えてきているので、我々は業界のリーディングカンパニーとして、しっかりと安全性を担保しつつ、健全な商品をしっかりと届けていくことによって、この盛り上がっているカプセル玩具市場をしっかりと育てていきたいと考えております。

 

 ▲東京おもちゃショー2023に出展されていた歴代のガチャ筐体。

   

――:ここ最近はテレビなどでも取り上げられることが珍しくなくなって、安全性やクオリティへの評価も上がっているのではないですか。

クオリティには驚かれることが多いですね。以前ですと、ガチャにも当たり外れがあって、ネガティブなイメージをもたれることもありました。当社の商品はポリシーとしてあからさまな当たり外れをなくし、どの商品が出ても同等のクオリティの商品として提供できるように意識して作っています。

 

――:マーケットが盛り上がっている一方で、円安や原材料の高騰も懸念として出てくるようになりました。

そうですね。ここ最近は、円安の影響が大きくなってきたと感じています。ガチャは、価格設定の方法が特殊です。例えば、100円、 200円、 300円、 400円…などと100円単位でしか設定できません。為替やコスト増の影響が企業努力ではどうすることもできないとなったとき、値上げに踏み切らざるを得ないのですが、上げる時は 100円単位で上げていかなければなりません。

100円の商品を 200円に上げてしまったら、 200%の価格アップになります。 200円から 300円に上げた場合でも150%アップ という形で上昇率が極端になってしまいます。大人のお客様が増えているとはいっても、やはりメインターゲットである子どもにも買いやすい価格帯を維持したいとも考えております。会社として利益を出さなければいけないなか、円安がじわじわ効いている感じはします。

最近では、ガチャは 500円など比較的、高額商品も出しているのですが、今のガチャ市場においてメインとなるのはやはり 300円です。そこはなんとか維持していきたいなと考えています。やはり子どもがガチャ売場に行って買える金額となると、 200円~ 300円になると思いますから。

ガチャというのは、キャラクターマーケットの中ではグッズの「入り口」と言われています。価格帯が低くて買いやすく、キャラクターへの接触点、ファーストタッチというミッションを担っているという自負がありますので、そこはしっかり守っていきたいですね。

 

――:基本的なことで申し訳ないのですが、ガチャに占めるキャラクターグッズは多いのですか?

キャラクター玩具のファーストタッチとお話しましたが、市場としては全体の7割くらいがキャラクター商品ではないかと思います。当社では、ポケモンやサンリオさん関連の商品が非常に好調です。当社では取り扱っていないですが、「ちいかわ」も人気のようです。

 

――:他社のケースですが、海外でガチャの専門店を出店したという情報を見かけるようになりましたが、御社ではいかがでしょうか。

先ほどインバウンドの話も触れましたが、海外の方からも日本のガチャについては、非常に精巧な作りや商品アイデアの面白さなど評価いただいているとは考えており、市場としての可能性は非常に感じています。

ただ、海外に行くとなると、どうしても硬貨がネックになって普及させづらいという問題もあります。国によってはガチャマシンを使わなかったり、電子マネーなどの決済手段を使ったりと、日本とは違った展開を行う可能性はあると感じています。また、アジア系については可能性がありますが、北米や欧州になると自販機の文化自体がないのでセキュリティの問題もあって難しさがあるとも考えています。

我々としてはこうハンドルを回して商品が出てくる喜びというところがガチャならではの面白さの一つと捉えています。できるだけ日本と同じような形で展開できたらと考えています。自分でハンドルを回して商品が出てくるというのは、ワンダーだと思っていますし、海外からいらっしゃる方もその点に面白さを感じていただいていますから。

 

▲ペニイ商会の看板も。

 

――:市場としての成長性はまだ高いと考えていますか。

大規模店舗の出店は、施設数の問題もあるので、徐々に鈍化していくだろうなとは思ってはいます。主要なショッピングモールにはだいたいガチャの専門店が入っている環境ですので、昨年ももうそろそろ鈍化すると言われながらも、昨対比で120%~130% ぐらいで伸びています。今年も状況はあまり変わってはいないですね。

今後を考えると、大規模な出店は今後頭打ちになっていく可能性はありますが、市場としてはまだまだ伸びる余地があると思います。ガチャの魅力の一つとして、毎月どんどん新しい商品が出てきて、中身がどんどん変わっていくというところがあります。定期的に売り場に来てガチャを楽しむことが習慣になっている方が増えていますので、しっかりとした商品をきちんと供給し続ければ、その方たちは継続的に買っていただけると考えております。当社としても商品の数と質をどんどん引き上げて、しっかりとした商品を市場に届けていくことによって、ガチャ市場を盛り上げていきたいと思います。

 

――:確かに商品サイクルの早さは他では見られないものですよね。ありがとうございました。

株式会社タカラトミーアーツ
http://www.takaratomy-arts.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社タカラトミーアーツ
設立
1988年2月
代表者
代表取締役社長 近藤 歳久
決算期
3月
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