豪華声優陣によるソーシャルゲーム「ガールフレンド(仮)」…女性イラストレーター2人に萌えイラスト業界を聞いた!!

ボストンに本社を構える人材エージェンシー「エイクエント」。アメリカ、日本、カナダ、イギリス、オーストラリア、フランス、オランダに拠点をかまえながら、ワールドワイドに事業を展開している。

今回のインタビューは現在サイバーエージェントで10月リリースした新作ソーシャルゲーム「ガールフレンド(仮)」を担当している女性イラストレーターの2人(関連記事)。

エイクエントのシニアエージェント中田了輔氏をインタビュアーとして迎え具体的な仕事内容、開発秘話、オフィス環境、2人の経歴などをざっくばらんに語ってもらった。

 

■プロフィール

宮本 佳奈さん:美術系の大学を卒業後、漫画家のアシスタント業務に約10年間携わる。2010年3月からはアメーバピグのイラストレーターとしての勤務を開始し、2012年7月からゲーム事業部に転籍。現在はイラスト制作だけでなく、外注管理にも関わる。

柴田 枝里子さん:大学でイラストを学んだ後、映像制作会社に勤務。今年上京を果たし、エイクエント経由でゲーム制作に参画。フリーのイラストレーターとして、マンガ家のアシスタントも手がける。マンガ、アニメ、ファンタジー、恋愛ゲームなどへの造詣が深い。

 

※インタビュアー 中田了輔氏 (エイクエント)

シニアエージェントとして主にインターネット、デジタル業界の就業動向に通じ、多くのクリエイター人材を推薦し就業を成功させている。サイバーエージェントも同氏のクライアントの1社。

 

■制作フローについて

───:ソーシャルゲームのイラストは、どういった流れでつくられていくのでしょう?

柴田さん:私たちが今手がけている「ガールフレンド(仮)」は脚本ありきでスタートしました。全体のシナリオや声優さんのセリフなどが最初にあって、そういった素材にインスピレーションを受けながらキャラクターのラフ画を描いていく感じですね。

宮本さん:ラフ画のディティールを煮詰めていくのが、線画という作業。私はこの部分のチェックにも携わっていて、「もっと指を細くしてほしい」といった、こまやかな指示を出しています。そこから着彩を仕上げ、完成形ができ上がるというのが大まかなフローです。

柴田さん:たとえばあるキャラクターを描くときでも、1つの絵を完成させるまでのフローを3人くらいで分担することもあります。「1つの作品として見たときに違和感がないか」という要素はゲーム制作では欠かせませんね。

───:どのようにしてイラストや着彩のテイストを揃えているのですか? 1つのプロジェクトには複数のイラストレーターが関わっていると思うのですが。

宮本さん:メインのイラストレーターがいて、基本的にはその人のテイストに揃えています。その為に何度もたたき台をつくりながら、少しずつテイストを揃える作業としてのレギュレーション(決まりごと)を設けていきました。ツールの使い方で例を挙げると、1つのレイヤーで使用するのは1色のみ。こうすると、外注の方から上がってきたイラストを修正するときに、作業をスムーズに進められるんです。他にも目や髪の塗り方、ブラシ設定、影の作り方といったさまざまな箇所に制作レギュレーションがあります。

柴田さん:スマホの場合だと解像度の関係上、顔まわりの線が細くなったり絵そのものが小さくなったりすることは少なくありません。特に「ガールフレンド(仮)」は紙に印刷できるレベルなので、イラストの情報量にデバイスが対応できないことがあるんです。ですから塗りを行うときには、スマホの解像度も念頭に置いています。

───:ただ塗り方が上手ければいいわけではないのですね。

宮本さん:外注の方から作品が上がってきたときに、センスはいいけど私たちが求めているものとは少し違うと感じることがあります。「テイストがどこか少女マンガチックだな」とか。一生懸命取り組んでいただいているのに方向性や適切なトーンを共有できていないとスムーズに制作を進めていくことができませんよね。だからこそレギュレーションが重要になりますし、その仕組みづくりには多くの時間を費やしました。これが個人で書くイラストとビジネスとして運用する大きな違いかもしれません。

 

■「ガールフレンド(仮)」の開発秘話

──現在のプロジェクトで、何か印象的なエピソードはありますか?

柴田さん:男性目線と女性目線の萌えポイントの違いには改めて驚かされました。このチームのイラストレーターは女性だけなので、男性も参加する会議の際には男性ならではの意見がどんどん飛び出してくるんです。瞬きさせる事はできないのか!とか、スカートはもっと短くできないのか!シャツのボタンをもう一個あけちゃおう!とかとか(笑)

宮本さん:もっと胸が強調されていた方がいいとか(笑)。

柴田さん:そうそう(笑) でも結果的にはその意見を取り入れて、巨乳の女の子には、服の上から胸にラインを入れるようにしました。男性目線での萌え度がぐっと上がるんですよ。写実的なデッサンを理論的に描くと固い生地の洋服の場合、胸の形はくっきりと出ないんですけど、現実的なそれは置いといて前述の通りスマホ解像度でも視認できるように強調すること。他にも身体のパーツだと、足に膝頭を描かないのが今回のルール。人体のデッサンとしてはあり得ない足の輪郭の曲線をクネッとさせて、可愛さを表現するように統一しています。このあたりは萌えイラストの大きな特徴ですね。

───:という事はやはり「ガールフレンド(仮)」のターゲットは男性ですか?

宮本さん;はい。ゲーム性を追求するコアユーザーはもちろんですが、女性も十分楽しめる内容にもなっています。AKBに女性ファンが多いのと同様で、カワイイ女の子はみんな大好きですよね! また声優さんたちが有名人ばかりなので、萌え系のゲームをしたことがない人でも楽しめると思います。

柴田さん:そう! 声優さんたちのラインナップはすごいんです!! 今はお話できないですけど全員集めたら、東京ドームでイベントができるレベル。制作スタッフたちの方たちも素敵で、みんなで魂を込めながらつくっています。

───:具体的にどういうゲームなのでしょう。

柴田さん:ジャンルはカードゲーム。舞台は学校で、部活動をしている子やアルバイトをしている子など、いろいろな女の子たちと知り合う機会があります。従来のカードゲームは、対戦に勝つとパラメーターが強化されていく仕組みでしたが、このゲームは対戦に勝つと女の子との親密度が高まっていくんです。

宮本さん:同時並行で、複数の女の子たちと仲良くなることもできます。プレイヤーにとっては、いろいろな女の子と進展を深めるというハーレム状態になれるわけです(笑)。画面にタッチすると「どこ触ってんのよ」なんてレスポンスがあったり、女の子から実際に電話がかかってきたりと、スマホの特性を活かしたエンターテイメント性の高いゲームになっています。

───:制作にあたってのオフィス環境はいかがですか?

柴田さん:アドビのソフトは全て使用可能ですし、ペンタブレットをはじめとしたあらゆるツールが最高のスペック。こんなツールが欲しいという要望を出せば、すぐにインストールさせてもらうことができます。最高の環境ですね。

宮本さん:一緒に仕事をするクリエイターの方たちのレベルもすごく高い。オーダーするときでも「この人なら、絶対に可愛く仕上げてくれる」っていう信頼があります。

───:チームワークも良さそうですね。

宮本さん:受け身の姿勢ではなく、みんながプロジェクトに対して前向きに取り組んでいます。「1日にこれくらいの仕事量を完了させておくべきだ」というタスクへの意識も高いですよ。

柴田さん;風通しも良くて、この間は歓迎会を開いてもらいました。想像以上に盛大でちょっと恐縮してしまいましたけど(笑)。

 

■いかにしてプロになったか

───:そもそもの話になりますが、お二人がイラストを描きはじめたのはいつですか?

宮本さん:中学生のときですね。友だちの影響を受けて、自分でも描くようになりました。

柴田さん:私は小学校のとき。一人っ子だったので、気が付いたときにはペンを握っていました。

───:影響を受けた人って、誰かいます?

宮本さん:永野護さんです。「ファイブスター物語」という漫画でも有名ですし、キュベレイをはじめとしたガンダムのモビルスーツデザインを手がけたことでも知られている方です。

柴田さん:私はokamaちゃんかな。ドラマ版の「電車男」のイラストを担当された方で、はじめて絵を見たときは衝撃的でした。自分でもこういったイラストを描きたいと思うようになってからは、もう萌えにズブズブ。当時はよく真似をしていました。萌えを世に広めたパイオニアだと、私は思っています。

───:萌えの元祖の方ですか?

柴田さん:元祖だと、セーラーサターンに登場する土萠(ともえ)ほたるじゃないですかね。萌えの語源だと都市伝説で聞いたことがあります。※、諸説いろいろあるようですが、SFアニメ作品『恐竜惑星』のヒロイン名説や少女漫画『太陽にスマッシュ!』説などがある。

───:イラストの世界で食べていこうと思ったのは、いつ頃でしょうか?

宮本さん:私はイラストを描いている内に、何となく生活に困らなくなるくらいに漫画の仕事がもらえるようになりました。でも、モチベーションが中々持続しないんですよ。たとえば、好きな萌え系のテレビ番組が放映されているときには意欲が湧くけど、そうじゃないときにはテンションが上がらないっていう。

───:そして漫画の世界に疲れたわけですね。

宮本さん:立場もアシスタントで、定職に就いていたわけでもありませんでした。そこから仕事を探しはじめてアメーバピグに入り、2年ほど経験を積んだ後に「萌えをやりたい」とお願いして、今の仕事にいたるわけです。ピグの経験は今の仕事にも役に立っていますよ。「自分のデザインを説明できるか」ということを、みっちり教わりましたから。花1つを取っても、何となく仮想のデザインを描くのではなく、現実のどのお花をモチーフとして描くといったように。

───:柴田さんはいつ頃ですか?

柴田さん:私はずっと一般企業に勤めていたように、「趣味は趣味」だと捉えていたんです。自分は社会に適応できない人間だと思っていましたし、絵が描けることが武器だなんていう自覚もありませんでした。

───:プロとして食べるためのルートを知らなかったと。

柴田さん:はい。自分の絵を見ながら「これ、どうしたらいいんやろ」って(笑)それに他の誰かに見せたところで、分かってもらえるのかどうかも不安だった。だから、転職を考えてエイクエントさんに相談がてら自分の絵を持っていったとき、的確な評価をいただけたのにはビックリしました。ちゃんと絵を理解してもらえるんだっていう。仕事先として紹介頂いたサイバーエージェントへの提出課題を作成する際にも、「どういうところに気を付けるべきか」というポイントを丁寧にアドバイスしてもらいました。

宮本さん:アドバイスと言えば、私は面接の練習をしたのを覚えています。緊張しやすいタイプなので、「こういう質問には貴方の意思をどう伝える?」という模擬面接を繰り返したんです。おかげで、本番もうまくいきました。

 

■この業界に適応できる人とは?

───:もし一緒に働くなら、どんな人がいいですか?

宮本さん:プロフェショナルとして与えられた時間内に仕事ができる人。リリースが決まっている以上、納期は絶対ですから。あとはコミュニケーション力でしょうか。よくしゃべるという意味ではなく、意思の疎通が取れて指示の意図を汲み取ってくれる人であれば、寡黙な方でも是非ご一緒したいです。

柴田さん:やっぱり自分が好きなことを仕事にしたい人かな。全てを思い通りに描けるわけではありませんが、柔軟性をお持ちの人なら、うまく折り合いを付けられると思います。私も働いていて、本当に楽しいですよ。

宮本さん:イラストを趣味で書いている人は私がそうであったように、「今さら社会に出れるのか」と思っている人も多いかもしれません。でもその技術を眠らせたままにしておくのはもったいない。例えば、萌え絵を描いたことがない人でも、ある程度のスキルがあれば対応できますから。実際、チーム内にも萌え系イラストを描いたことがないメンバーがいましたが、環境がそうさせるのか、びっくりするほど萌えに適応しています。

───:自分で絵を描いた経験がない人はどうでしょうか。マネジメント層だとそういったケースもあるかもしれません。

宮本さん:希望としては工程や工数に対しての理解は持っていただきたいですね。すぐに描けそうな箇所でも、意外に時間がかかることがあるんです。そこが分からないと、外注への価格交渉もできません。ただ、萌えやイラストに精通し過ぎていないことは、一般的な目線を持っているということでもあります。この間も、女の子が片目をつむってウインクしてる絵を見せたとき、ある人から「ものもらいができてるみたい」って言われたことがあって、ショックでした(笑) でも一方では、フラットな視点ではそう見えるのか!! って気付かされました。ですから経験がなくても、流れと内容を理解して頂ける方であれば違う視点で俯瞰する、そんな活躍できる場はあると思います。

───:萌えの市場って、今後どうなっていくのでしょうね。

柴田さん:今の中高生って、当たり前のように初音ミクの音楽を聞いたり、日常的にニコニコ動画を見たりしているじゃないですか。それが存在することが普通なわけです。今の大人たちにとって、ガンダムがそうであったように。ですから今の若い世代が大人になっていくに連れて、受け皿はさらに大きくなっていく気がしますね。

宮本さん:「ガールフレンド(仮)」のように、コア層以外の方も楽しめるライトゲームが増えていくと見ています。それに合わせて、ユーザーの裾野は加速度的に広がっていくのではないでしょうか。しかも国内だけでなく、世界規模で。

柴田さん:アメリカで本屋さんに行ったとき、日本の萌え系のマンガやDVDが棚の前列に並んでいたんです。しかも、私ですらも知らないようなアニメまで。マーケットは確実に広がっているので、ぜひ「ガールフレンド」も海外進出を目指したいですね。

宮本さん:多くの人に楽しんでもらってヒットさせたいね!

柴田さん:うんうん!これでビル建てたい!!(笑)。

--------------本日はありがとうございました。

 

【取材後記】

エイクエント:中田了輔氏

萌えビジネス市場の成長力は著しい。つい数年前まで一部のファンに指示されていたが、萌え、オタク市場規模は4000億を超えており、CDセールスマーケットを優に超えている。現在のコンテンツ市場において欠かせない存在となっているのは明らかだ。

しかしこの市場は自然に出来上がったものではない。スマートフォンの普及、ソーシャルという特徴上手く活かし、ビジネスとしての萌えを仕掛けていったベンチャー企業の貢献によるものと言っても過言ではないだろう。

サイバーエージェントは雇用形態問わず活躍できる環境が整っている。

自分の好きなことをビジネスとして盛り上げる姿勢を持つ社員に対して会社は全力でバックアップしている。とても自由であるが決して身勝手ではない。徹底的なユーザー目線に立ってビジネスとしての萌えを考える環境が用意されている。今回のインタビューを通してサイバーエージェントのコンテンツ制作に対するストイックな姿勢をダイレクトに感じ取ることができた。スマホを主戦場と置き、デカグラフ構想を掲げる同社の動向に今後も注目したい。

 

 

■エイクエントLLC会社概要

会社名 エイクエントLLC
URL http://aquent.co.jp/
設立 1986年5月
代表者 John H. Chuang
事業内容 エイクエントはデザイン、マーケティング専門の人材エージェンシー。 世界15の国と地域でビジネス展開するクリエイティブ関連では世界最大級の規模とネットワークを誇ります。テンポラリー、正社員、プロジェクトベースまでの勤務形態をご紹介。日本では、東京、大阪、名古屋、福岡で事業展開しています。 Webサイト(http://www.aquent.co.jp/)にて、求人案件を多数掲載しています。ご覧ください。
【東京オフィス】 東京都港区南青山2-11-16 METLIFE青山ビル9F
主要取引先 IT系企業。広告会社(国内・外資)、制作プロダクション、出版、印刷、メーカー(家電~飲食など全般)など。 一般企業では特にWEB関連、クリエイティブ関連、マーケティング関連の部署に多くの人材をご提供しています。
株式会社サイバーエージェント
http://www.cyberagent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サイバーエージェント
設立
1998年3月
代表者
代表取締役 藤田 晋
決算期
9月
直近業績
売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4751
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