【インタビュー】「日本支社独自のコンテンツを」...ネットマーブルジャパンに訊くIP戦略の展望と事業開発室設立の背景


つい先日、レベルファイブ社とのタッグによるモバイルゲーム『妖怪ウォッチ メダルウォーズ』(以下、『妖怪ウォッチ』)の制作とTGS2018への出展を発表したネットマーブル。
 
韓国に本社を置く同社では、日本のゲーム市場をどう見ているのか。またネットマーブル社の成果や戦略とは?今回の取材では、ネットマーブル社の現状と今後の課題と展望について、ネットマーブルジャパン(以下、NMJ)の遠藤祐二社長、椎野真光事業開発室長にインタビューを行った。(インタビュアー:デロイトトーマツ 井上 順一、中川 哲朗)
 

■市場トレンドのインプットを担う…日本法人設立による日本事業の強化


―:それでは、まず遠藤様のご入社の経緯をお聞かせください。
 
遠藤氏(以下、遠藤):前職はディズニーでアジアパシフィックの事業開発をやっていまして、その時にネットマーブルを訪れたのが最初の出会いでした。ゲーム担当ではなかったので直接の関りはありませんでしたが、マーベル・フューチャーファイト(以下、『MFF』)などで会社同士のお付き合いがあったので話はずっと聞いていましたね。去年ネットマーブルと話をさせてもらう機会があり、自分の知識や経験が今後の日本市場におけるビジネスの発展に貢献できると思いまして、ネットマーブルにジョインした次第です。
 

―:ありがとうございます。椎野さんはどのような経緯で入社されたのでしょうか。
 
椎野氏(以下、椎野):僕がネットマーブルに入社を決めた最大の理由は、ネットマーブルの日本法人を事業化するにあたり、それに付随する事業開発をやってほしいというオファーを聞きまして、これは面白そうだなと思ったことですね。
 
これからのゲームビジネスはグローバルに向けていくことが必要で、海外のゲームが日本に入ってきてシェアを奪っている中、日本で展開しているゲームを海外に展開していかないといけないと思っています。グローバルでの実績があるネットマーブルにおいて、そのノウハウを生かしながら日本ならではの戦い方ができるというのはおもしろそうだなと。
 
あと、GameBankにいたときに海外のパブリッシャーさんとお付き合いすることがありまして、海外のやり方はかなり日本と違うと感じていました。彼らのやり方を、若干停滞気味のある日本のゲーム業界に取り入れることで、新しいゲーム世界を作れるのではないかなと考えています。
 

―:NMJの方針・戦略についてお聞かせください。
 
遠藤:NMJ自体は2004年に設立しまして、2012年くらいまではPCゲームを主にパブリッシングしていました。2013年から本格的にモバイルゲーム事業を開始しまして、代表的なラインナップとしては『リネージュ2 レボリューション』(以下、『リネレボ』)と『セブンナイツ』という2タイトルがあります。
 
組織体制としては、現在90人くらいのスタッフで運営しています。2017年の実績ですが、ネットマーブル全体としては売上高で2兆4284億ウォン(日本円で約2400億円)ですね。そのうち海外の売上高は54%ほど、日本の売り上げが19%を占めています。日本の市場規模も見据えて、日本事業の強化に集中しているところです。
 

―:なるほど。組織体制について、パブリッシングやマーケティング部隊といろいろあるかと思いますが、その役割はどうなっているのでしょう?
 
遠藤:NMJには開発・運営とありますが、我々事業部が開発の段階からどういうゲームにすべきかは、言語面でのローカライズも含めてディスカッションを通じて関わっていますね。初期の段階からゲーム製作に関与していく場面は多々ありますし、さらにインゲームで何をやっていくかといったマーケットインサイトの部分もインプットしながら企画していくという感じです。NMJの中でまさに「開発」をしている部隊は日本にはありませんが、実際の開発においては現地韓国本社の開発部隊と早い段階から関わっていますね。
 
運営フェーズになったときは日本市場でのCSなどは全て日本で対応していますが、開発フェーズでは韓国本社の開発と連携を密にしながら、日本ユーザーからのリクエストをどうゲームに反映していくかという議論をしています。本社と日本、一体感を持ってやっています。
 

―:企画・開発を本社でしっかりやりつつ、パブリッシングの部分を日本で対応しながら適宜本社にインプットしてく、というイメージでしょうか?
 
遠藤:そうですね。人の行き来も多いし、バーチャル的に一体化しているとでも言いましょうか。グローバルビルドと日本向けの2つの方向性がありまして。その中でも『リネレボ』や『セブンナイツ』、『テリアサーガ』といったところは日本向けに作っています。
 

―:『七つの大罪 ~光と闇の交戦(ひかりとやみのグランドクロス)~』(以下、『七つの大罪』はグローバル向けでしょうか?
 
遠藤:『七つの大罪』は日本向けですね。7月26日にグランドオープンとなった『THE KING OF FIGHTERS ALLSTAR』(以下、『KOFAS』)も日本向けです。日本向けについては一体となって製作しているような感覚ですね。逆に、『ハリーポッター』や『MFF』、『スター・ウォーズ:フォース・アリーナ(STAR WARS™ :Force Arena)』などグローバル向けについては、大きく関与はしませんが提案ベースで関わっていくところはあります。
 
本社との関係値としては、日本のユーザーのことをよく理解して、トレンドもしっかり理解して、何をすべきかを示していくことを期待されています。新しく入ってくる人にはもちろん、既存メンバーの底上げも同時にやっていけるかが勝負になってくるかなと思います。
 

■IPコラボや委員会出資など…ネットマーブルジャパン事業開発室の狙い




―:それでは次にNMJ2018年におけるこれまでの成果と、今後の計画をお願いします。
 
遠藤:大きく分けて3つあります。まずは既存ゲームのイベント系のものからご説明します。上半期に日本メインで配信している『ナイツクロニクル』、『リネレボ』、『テリアサーガ』の3つで様々なコラボをやりました。『ナイツクロニクル』が「鋼の錬金術師」と「フェアリーテイル」、『リネレボ』と『テリアサーガ』が「ダンまち」シリーズと。自社IPを育てていくことはもちろんですが、日本に親しみのあるIPとのコラボによる取り組みはゲームへの親和性を高め、結果ユーザーからも好評だったので良いマーケティングだったと思います。また、8月には『リネレボ』がサービス1周年を迎え、ファンの方々と交流できるイベントを秋葉原で開催し、新コンテンツ等の発表も行いました。
 
新規ローンチでは4月に『フィッシングストライク』、5月には『アイアンスローン』、『テリアサーガ』の2つ、7月に『KOFAS』、8月に『デスティニーナイツ』をローンチしています。組織的には、3月に私が、5月に椎野がジョインしました。
 
2018年の今後の計画については、ユーザーのニーズが多岐にわたってきていますので、それに応えられるようなるべく多くのタイトルをリリースしていきたいですね。レベルファイブ社とタッグを組んでお贈りする『妖怪ウォッチ』や、『七つの大罪』を日本向けに、『Phantomgate(ファントムゲート)』をグローバル向けにリリースする予定ですし、更に日本市場にフィットしたサービスを提供していきたいなと思っております。『セブンナイツ』のSwitch版も予定しています。
 

―:それでは、タイトル以外の新規事業ということで、事業開発室の話を椎野さんお願いします。まず事業開発室設立の背景をお願いします。
 
椎野:NMJとして目標としているのが、現状のコストセンター的な組織という立ち位置を変えていくことです。今まではタイトルを持ってきて日本市場にフィットさせるというのがほとんどでしたが、今後は日本でコンテンツを作れるようにしていきたいですね。開発は勿論ですが開発に限らないという考えです。日本のタイトルをグローバルに展開してネットマーブル全体の売り上げに乗せていき、可能な限りNMJが自立した存在になろうと。
 
そういった方針での方策を考えたり実行に移したりするのが事業開発室の役割ですね。日本のパートナーとのリレーション構築もタスクの一つです。IPコラボであったり、IPをお預かりして日本以外の地域で配信したりというのも想定しています。映画製作委員会に入るなどしてIPを作ったり自社コンテンツを育てたり、などを想定しています。育てるという意味ではいろいろと取組む予定です。
 
トレンドとしてはアニメへの展開やイベントというのは必須という流れですので、ファンを増やしてくのはゲーム内だけでなく周辺も固めていくことが大事です。中国ではアニメ化とセットでゲームというのも実績が出てきていて、それもトライできればと。
 

―:具体的に進めてく予定の事業はありますでしょうか?
 
椎野:IP取得という観点では、M&Aやアライアンスに加えJVというのも視野に入れています。出資については、ここ最近の日本ゲーム企業は資金不足になってしまっています。海外のコンテンツが日本に入ってきて、日本の売り上げが海外に逃げてしまっている。技術力はあるけど資金に困っている会社があるので、その会社に合わせて一番いい形でいいタイトルを出せるような環境づくりをお手伝いしたいと考えています。
 
既に準備は進めていて、各社へのヒアリングもしています。年内はプランニングですが、来季以降に向けて動き出していきます。良い案件があれば来年にでも固まっていく流れだと思います。
 
遠藤:いろんなジャンルのゲームを作ろうという方針の中、韓国側で得意な分野は揃っていますが、日本にマッチしたジャンルは日本側で用意したいですね。TPOにあった形のポートフォリオが組めればいいなと。内製がメインで行きたいですが、必ずしも内製にはこだわっていません。
 
椎野:内製するためには採用が大変で、採用から始めようと思うと1タイトル3年くらいのスパンで考えないといけないですからね。外部と組むのはその点で魅力的です。

 

―:資金力に恵まれない会社にとっても魅力的な話ですし、日本のゲーム企業の底上げにも繋がると思います。
 
椎野:日本のゲーム業界の構造的な課題として、技術力はあるけれどキャッシュフローに余裕がないために、ひたすら大手パブリッシャーの言うとおりにゲームを作らざるをえないという現状があります。自由度が失われて活きのいい開発者が業界から離れていってしまう状況を打開したいと思います。
 

―:100人くらいの会社が受託ばかりしているうちに受託しかできなくなり、気づけば普通の会社になってしまったという事例はありますね。難しい状況です。それでは最後にユーザーの方や開発者の方に向けて何かありましたらお願いします。
 
遠藤:とても高い人気を誇るIPの作品となる『妖怪ウォッチ』や『七つの大罪』といった新作ゲームを年内にローンチする予定です。とてもリッチなグラフィックを使っていますし、まるでアニメを見ているかのような感覚で遊べるようにしている自負があります。アニメーションが得意な開発部隊ですのでインパクトがあると思います。楽しみにしてくださっている皆様はぜひご期待いただきたいですね。

また、新しいタイトルの拡張だけでなく、既存タイトルの強化にも注力していますので、『リネレボ』や『KOFAS』への応援もよろしくお願いいたします。
 
椎野:遠藤がユーザー様向けのコメントでしたので、私は開発者や企業の方に向けてコメントしたいと思います。
現状の日本のゲーム業界は「失われた10年」という大きな問題を抱えていると思っています。ここ最近マネタイズ周りばかりに力を入れてしまって、ゲームの内容でいうと一気に中国や韓国の会社に抜かれてしまいました。競争力が落ちてしまった特に大きな原因として、資金面と人材面があると考えています。
 
日本は比較的ゲーム業界が古く「村社会」になってしまっていて、既にある大きなゲーム企業を中心とした経済圏があって、場をわきまえようという空気があるんですよね。コンシューマゲーム周りは特に長らくコネクションが前提となっていて、やる気を高めるようなインセンティブプランというか、長期のお付き合いをしてあげますよというのをインセンティブにしている。頑張って売ったとしても僅かしかお金が入らない、いつまでたってもキャッシュフローが億に届かないということにもなってしまう。そうなるとまた受託に頼らないといけない、という悪循環の中では良いゲームは作れません。
 
人材面だと、ゲーム業界の特性上優秀で尖った人に入ってもらわないといけないのに、経済的な成功を提供できないとそもそもゲーム業界に入ってきてくれません。1990年代後半が一番ゲーム業界の華やかだった時代で、一番面白い人たちがゲーム業界に入っていました。日本はゲーム製作者が金に頓着しないといいますか、ゲームを作れることで満足してしまうというのがあります。中国や韓国では、作りたいゲームを作るのはもちろん、ゲームで経済的に豊かになってやろうという気持ちが凄いです。ビリオネアになれる、なった人たちがエンジェル投資家になり、またゲームに投資するという好循環が生まれます。今の日本ではその流れが全然なくマズいなと思います。
 
グローバルを見据えないとどこかしらで手詰まりになってしまうので、アジア圏を中心としたグローバル展開は必須だと思っています。ネットマーブルと組むことで、グローバルに対する発信力がとてもつきますし、あと、一番皆さんが困っている資金面についても力強くサポートができます。ということで、志はあるけれど資金がないという企業さんはぜひお声かけいただきたいですね。
 

―:日本向け・グローバル向けタイトルのいずれも、ユーザー様の求めることを理解してより良いゲームを出していきたいという方針が分かるインタビューでした。また、日本のゲーム業界を再び第一線に押し上げたいという強い情熱が伝わってきました。ネットマーブル社と日本ゲーム業界の発展のためにも、お話しいただいた計画の成功を楽しみにしております。本日はお時間いただきありがとうございました。
ネットマーブルジャパン株式会社
http://www.netmarble.co.jp/

会社情報

会社名
ネットマーブルジャパン株式会社
設立
2001年8月
代表者
代表取締役社長 朴 宰勲
決算期
12月
企業データを見る
​Netmarble(ネットマーブル)

会社情報

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​Netmarble(ネットマーブル)
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