【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」


 
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。


 

■第十九回 「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

 
今回のテーマは、仕事をするうえでも、就職活動をするうえでも、非常に大切な、他人に自分のイメージを「伝える」ことについて書きたいと思います。


 
これは、ゲーム業界のクリエイターだけに限定されることではないと思います。仕事にせよ、研究にせよ、1人だけで実行することは減ってきています。

また、もし作業自体は個人で必死に推進したとしても、そのアウトプットは、やはり他者に伝える必要があります。もちろん、昔の芸術家のように、わかる人だけわかってくれたらいい! とか、没後評価された! というような覚悟をもって、日々をすごすのであればよいのかもしれませんが、あまりにも、ストイックですし、辛いでしょう(笑)。

さて、ではゲーム業界に目をうつしてみるとどうでしょう?

まず、ゲームは、もう1人でつくることは、かなり難しい時代に入ってきています。もちろん、インディーズゲームもありますので、こつこつと1人で、企画、デザイン、サウンド、プログラムまで全部1人でやることも、NGではありませんし、時間と能力があれば不可能ではりません。全部自分でやったほうが、満足も得られるでしょうし、納得のいくものがつくれるかもしれません。ただ、やはり、圧倒的に“時間”を費やしてしまうでしょう。いろんなところで、講演するときにもお話していますが、

面白いことを「着想する」だけで終わってはいけない
→アイデアを考えるだけであれば、おそらくよほどの天才でない限り、世界中で同時に何百、何千の人が考えていると思います。

なので……

「着想」したものを如何に「早く実装して世に出すか?」が大事である
→つまり、考えているだけではダメですし、実装していても、遅くて他に似たようなものがたくさんでてきてしまうようでは、ダメなのです。

と、なると、時間を費やしすぎてしまうことは、ややリスクがあると言えるでしょう!(もちろん、インディーズゲームで、自分たちの信念にもとづいて作っておられる方が世界にたくさんいらっしゃることは存じ上げていますし、その中から『Tengami』のような大成功例がでていることも知っていますので、わたしはリスペクトしてやみません! ただ、相当な「覚悟」をもって皆さんやっておられるということを理解していただきたいのです)

▲『Tengami』。日本の文化をこよなく愛する日英独のベテランゲームクリエイター3名による独立系開発スタジオ「ニャムヤムLTD」(Nyamyam, 英国)が、3年の月日を費やして制作した純和風3Dアドベンチャーゲーム。


このコラムでも何度か書いてきていますが、ゲームは「正解のない、唯一解のない」ものをつくっています。

また、生活必需品でもないので、絶対に●●でなければならない! というものは存在しません。しいていえば、誰か(ターゲット)にとって面白いものでなくてはならない! ということくらいでしょうか。

その分、正解が決まっていないので、自分たちで正解を推測、仮説設定、意思決定して、そこにむかって進まないといけません。北極星のような、明確な道しるべがあるわけではないのです。で、あるがゆえに試行錯誤をたくさんすることになるでしょうし、「面白さ」も、多種多様なものが定義できることでしょう。ゴールも多種多様、途中のプロセス、道筋も様々なので、開発当初はチーム内でイメージを共有できてないことがままおこりえます。

一番の理由は、言葉に対する甘え、つまりはドメスティックな言語である日本語でニュアンスだけで会話をして、なんとなく、通じた気になりそのまま進めてしまいがちです。が! 実は、伝わってない、コンセンサスがとれてないので、あとで、混乱や、ブレがでてくることが多いのです。なので、一番最初に、ゲームの核である、面白さを担保する「感情」はなにか? を定義する必要があるわけです。これがコンセプトです。

ただ、この2センテンスくらいであらわされるコンセプトワードを規定すること、これがそもそも簡単なことではありません。あいまいな言葉でふわっと作ってしまったり、感情を動かすことを規定したいのに、なぜか概要、状況を説明してしまったりします。でも本来は、

「このゲームは何が面白いのか?」
→「このゲームをプレイすると、ユーザのどんな感情を動かすのか? 1つのアクションの感情でもいいですし、感情の「流れ」でも、いいと思います。

に尽きるわけです。どんな感情を動かすのか? 感情を変動させるのか? を規定できていれば、それを実現するシステム、ルールを構築すればよいのです。つまりは、

達成しなくてはいけない目的 = コンセプト(ユーザ感情とその動き)

なのです。大学で、非ゲーム系の学生さんも、自分には関係ないな……ということでは、決してないと思いますよ。研究も、コンセプトに近いものがあるわけです。それは、

仮説の設定

です。現状を見回し、学術的先行研究でなされていない、とか、現実社会の中において解決しないと不便でたまらないこと、などなど、研究の着想時点で調べたり考えたりすることは、たくさんあるかと思います。それらを調査し、いかにして、解決するか? もしくは、新たな手法を提示しようとするか? そのためにも、自分なりの仮説をたてて、それを証明するための研究、実験、実装をしなくてはいけないわけです。




となり、プロセスとしては近いところを進む側面もあると思います。(研究素人のわたしが言うのも失礼な話ですね、すみません)結局どちらも、まずは、ざっくりベースでもいいので、こういったフロー、構成モデル化して考えられるかが大切な第一歩だと思います。モデル化する、構造化することで、自分の中でも整理されますし、可視化することで、自身の論理の破綻や綻びに気づくこともあります。

過去にある先行事例のギミックを、おいしいどころどりであったり、よりどりみどり的に埋め込んでいっても結局解決できません。なぜならば、「最終的にどうしてやろう」という意思、つまりは、コンセプトや仮説に紐づいてないからです。コンセプトの実現、仮説の立証こそが、おおいなる「目的」なわけですから、この目的設定を最初にしっかりやること、これが第一歩なのは、間違いありません!

次に、コンセプトや仮説を設定しても、それら周囲を巻き込んで実現に向かう、つまり、チーム開発や研究を進めることになると、そのチームメンバーに、コンセンサスをとれていないといけない、ということになります。

繰り返しますが、全部を1人でつくればこのプロセスは必要ありません。たいていは意思持ってそれをやっているでしょうし、万が一、意思がふわっとしていたとしても、自分だけしか考えて、手を動かしている人間がいないわけですから、誤解の発生しようがありません。もっとも、自分だけでも、コンセプトを明確にしておかないと、止める人がいないので、勝手に迷走していく場合もあります(笑)。

つまりは、面白さの核がはっきりしてないのに、手だけ動かしてしまい、面白そうに感じたことを手当たり次第、ぶちこんでいってしまうことがあるからです。1人での開発であっても、やはり、コンセプト設定自体は必須です。

さて、チーム開発に話は戻りますが、唯一解でない、かなりニュアンスやイメージに近いものからスタートすることからも、お互いのイメージを1つのものに寄せていくことは、簡単なことではありません。で、あるがゆえに、しっかりと「伝える」ことをしていかないといけません。日本語であることに甘えない、学生さんであれば、フラットな関係であるがゆえに、指摘しあわないことを避けねばならないなど、いろいろな課題はあります。

ただ、逆をいえば、各自が1つ1つもっと言葉の定義や伝える手段を厳密に使用して、より一意に相手に伝わるように発信できたら、誤解は生じにくいと思います。また、伝える手法は、職種や得意とするところによって変わっていいと思います。

プランナーの方(or志望)であれば…
→言葉を武器に伝えることになるでしょう

デザイナーの方(or志望)であれば…
→言葉がやや得意でなければ、絵やデザインを武器に伝えてもいいでしょう

エンジニアの方(or志望)であれば…
→そもそも、もう動くものを作ってしまうのもありかと思いおもいます

ただ、いずれの職種の方であったとしても、最後にはドキュメンテーションして、言葉で(文章で)残しておく必要があります。それは、シリーズでものをつくっていったり、より大勢が開発メンバーに後で追加されることもあるからです。そうなると、旗印は、やはり、わかりやすく言葉で定義されている必要があるからです。理想は、

企画概要書類
→コンセプトワード、ターゲット設定、コンセプトを実現するルールやシステム、ゲームの流れ、画面構成イメージ

コンセプトアート
→絵柄の方向性、キャラクタの関係値、世界の設定などがわかるイメージイラスト

イメージモック
→プレイヤブルである必要はないですが、一番面白いところ=コンセプトを実感できる一番大事なところが、動きで確認できるもの(動画でもいい)

この3つをそろえて、いつでも見られるように情報開示しておくことです。プロの開発現場では、壁に張り出してあったり、モックは動画で無限ループで再生されている環境を見たこともあります。伝えることを怠らずに、伝わらなかった=誤解を与えたまま進んだときのリスクを知っているからこそ、こういった努力をしているプロがいると思います。

なんでわからないかな~ 伝わらないかな~

ではなく、

必ず、相手にわからせないといけない

のです。そのためには、そこの労力を怠ってはいけませんし、少しでも相手が違和感や疑問をもっていると感じたときは、それを是正する努力を全力で、迅速に行う必要があるということです。

極論、ゲームをつくる、というのは、自分の頭の中にうかんだイメージを全力で相手に共有して、伝えて、感情を動かしてもらうものです。つまりは、伝わらない限り、なにも始まらないわけです。手段は問わないので、とにかく「伝えることから始めよう!」です。

今回は以上で!
 


■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」