【インタビュー】「社内レビューを繰り返し面白さを洗練」…『グラブル』等を手掛けるCygamesシニアディレクター陣に訊く“最高のプランニング術”


現在Cygamesは、今後の事業拡大のため、様々な職種で採用面に力を入れている。

同社といえば、『グランブルーファンタジー』や『神撃のバハムート』などのオリジナルタイトルをはじめ、『アイドルマスターシンデレラガールズ』『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』といった、受託開発でもクオリティの高いコンテンツを創出しているゲーム企業だ。

本稿では、Cygamesの様々なゲームタイトルを担うシニアディレクター3名に、ゲーム作りで大切にしていることや、社内環境、求めている人物像などについてお聞きした。
 
 

■Cygamesシニアディレクター陣に訊く



プランナーマネージャー兼
新規ネイティブタイトル ディレクター
松浦弘樹 氏 (写真右)

『グランブルーファンタジー』
ディレクター
福原哲也 氏 (写真左)

ネイティブタイトル
ディレクター
三沢宏行 氏 (写真中央)


――:本日はよろしくお願いします。はじめに皆さんの現在の担当タイトルと、業務内容を教えてください。

松浦弘樹氏(以下、松浦):新規ネイティブタイトルのディレクターを務める傍ら、プランナー全体のマネージャーも兼任しています。新規人材の採用のほか、各プロジェクトの相談対応なども行っています。

福原哲也氏(以下、福原):私は『グランブルーファンタジー』のディレクターを担当しています。開発初期から現在まで、プロデューサーの春田(Cygames 取締役 春田康一氏)と一緒に、二人三脚で運営業務を行っています。

三沢宏行氏(以下、三沢):現在はネイティブアプリ作品のディレクターを担当しています。


――ありがとうございます。皆さんは、どういった経緯からCygamesにご入社されたのでしょうか。

松浦:私は以前コンシューマゲーム企業で働いていて、そこからCygamesに転職してきました。会社の名前をはじめて見たのは、『神撃のバハムート』に触れた時でしたね。

美しいグラフィックであるとか、当時のソーシャルゲームの常識を超えるクオリティのゲーム内容に衝撃を受けて、「自分もこういう作品を作ってみたい」という想いから、転職を決意しました。

福原:私が入社したのは2012年の春頃です。それ以前はフリーのデザイナーとして活動していたのですが、個人でもアプリを手掛けたり、グラフィック素材の制作などで、ゲーム制作にも関わりがありました。

2011年までは地元の宮城で活動していたのですが、ゲーム開発に本腰を入れようと思い、より大規模なゲームを作れる企業を探し、見つけたのがCygamesでした。最初はプランナーとして配属され『神撃のバハムート』でイベントなどを担当していました。そこで1年ほど経ってから『グランブルーファンタジー』でディレクターを担当することになり、今に至ります。

三沢:私が入社したのは、会社設立後1ヵ月ほどの時期だったと思います。前職で一緒に働いていたCygames現社長の渡邊(渡邊耕一氏)から設立後に声を掛けられ、転職する形で入社しました。


――:転職にあたって、何か印象的だった出来事などはありましたか。

松浦:個人的にはスピード感ある対応に驚きました。何をするにも返事が早くて、応募を出した翌日には面接のスケジュールを調整してくれたのです。入社後、二週間も経たない時期から「新規の企画でディレクターやってくれ」と、すぐに実務に入れたのも良かったですね。


――:実際に入社してからの印象は、入る前後に違いはありましたか。

福原:転職時に採用ページを見た時は「意見を上に通しやすい」「自分の裁量でやりたい事をできる」という、自由な社風を前面に押し出していましたね。……正直、その当初は「本当なのか?」と思っていた部分もあったのですが、入社してみたらその通りで驚きました。何より、上司に直接意見できる場が用意されていて、全員がしっかりと意見を聞いてくれるのが良いですね。筋さえ通っていれば、やりたい企画をやらせてもらえます。

松浦:私も同じように感じました。大きい会社だと「開発と経営は別」というスタンスが普通だと思いますが、Cygamesは役員クラスの方も“開発者的”な考え方で行動しているので、とにかく距離を感じないんです。


――:現時点では、かなり大規模な会社になっていますよね。会社が大きくなっても、自由な社風に変化はありませんか。

松浦:相変わらずですね。役員陣と開発の話をするのは日常茶飯事ですし、社長は各プロジェクトチームとの定例会議を持っています。

さらに、役員と社長に向けた新規プロジェクトのプレゼンが月1回のペースで行われているなど、交流の機会は非常に多く取られています。これを続けられている会社は、あまり多くないと思いますよ。

 

■自由に創作へ打ち込める、整備された社内環境


――:社内環境についてはいかがでしょうか。何か印象的なシステムなどはありますか。


福原:業務に必要な物を請求すると、会社が迅速に用意してくれるのは嬉しいし、非常に助かりますね。それに加えて、有名なコンテンツは会社に常備されていたりします。例えば、代表の渡邊は「ガンダムは一般常識」という理念のもと、全シリーズのDVD・Blu-rayが置いてあったり(笑)。


――:おおっ。一気に社長さんが身近な存在になったように思えます(笑)。

福原:イラストレーター用の模造刀やレプリカ武器と、それを見てポーズをとるための壁一面の鏡が用意されていたり、資料の充実度も相当なものですよ。PC周りのシステム管理やヘルプデスクもキッチリ動いているので、機器トラブルで受ける損害も最小限に抑えられています。実務的な意味においても、かなり従業員に優しい環境が整っているのではないでしょうか。

松浦:オフィスが常に綺麗なのはもちろん、自動販売機がタダだったり、細かな配慮が行き届いているのは良いですよね。全社員にデュアルディスプレイのPCが支給されていたり、必要なソフトウェアがプリインストールされていたり入手が容易だったりするのは嬉しかったですね。


――:なるほど、実務に必要な環境整備は万全のようですね。

三沢:おかげで、開発陣はとても楽しそうに仕事をしています。上司との交流が活発だという理由もありますが、根本的に職場の雰囲気が明るいんです。実務以外の面でも、毎月必ず“締め会”という大掛かりなイベントが開催されていて、活躍をした社員を表彰するんですよ。ゲーム開発って、もっと淡々と業務をこなしていくのが普通だと思っていたので、最初は驚きました。

松浦:プランナー全員が集まる定例会も、月1回の間隔で用意しています。何か面白い企画を考えたら、すぐに周囲に発表ができるので、新しい行動に移すモチベーションにも繋がっているように思えます。


――:プロジェクトの垣根を超えた交流が用意されているとは、かなり珍しいですね。定例会の内容は、勉強会のようなものなのでしょうか。

松浦:いえ、勉強会は定例会とは別の会合として行っています。定例では、会社からの連絡事項を伝えることはもちろんですが、各プランナーがライトニングトークを行ったり、終了後には懇親会を開くなど、プランナー全体の横の繋がりを持つために開催しています。


――:立ち上げ初期から参加されている三沢さんから見て現在の体制はいかがでしょうか。


三沢:体制が整備されて、現在の方が良くなっているのは間違いないと思います。設立当初から「何かやるなら面白く」という意思がすごく強いので、会社でやるイベント事なんかは、毎回どんどん独創的になっているのが印象的ですね。


――:会社でやるイベントというと、先ほどお話されていた締め会などですか。

三沢:それもありますが、ハロウィンの日には皆で仮装したり、もっと格式張っていないイベントもありますよ。役員陣が率先してハロウィン仮装を作ったり、クリエイティビティを刺激する要素が多いんです。ビルの15階に設置されたカフェがメイドカフェだったり、とにかく型にはまらないことは沢山あります。

松浦:三沢さん、去年のハロウィン仮装ショーでは特別賞を取ってましたよね?


――:ちなみに何の仮装だったんですか?

三沢:く、草間彌生(くさまやよい)を……。

(一同、爆笑)

松浦:今年は、『神撃のバハムート』に出てきた「タルトマン」を再現した仮装なんかもありましたね。なんにせよ、そういった遊びに全力で打ち込む機会があるのも、会社の特徴だと思います。
 

▲『神撃のバハムート』に登場する「タルトマン」のコスプレ

三沢:そうですね。何より「自分の知らない部署にこんなすごい人がいるのか」と、興味が湧くのが良いですね。『グランブルーファンタジー』のTGS(東京ゲームショウ)展示が凄まじかったのは、そこで培った技術や精神が表れた結果じゃないでしょうか。


――:社内イベントといえば、Cygamesさんは以前に「かみゲーグランプリ」というイベントを行っていた、と聞いております。こちらは、どういった企画だったのでしょうか。


 
松浦:以前、各職種やポジションでNo.1を目指すためにどうすればいいかというテーマで、各プロジェクトのプランナーやディレクターを集めて合宿をやった事があるんですよ。その中で「プランナーの能力を向上させるための訓練」として生まれたのが、かみゲーグランプリでした。

三沢:内容は「アナログな素材(紙など)を使ったゲームを1日で作りましょう」という単純なものです。最終的には個人個人で作品を作るのですが、制作途中でテストプレイの時間があります。そのテストプレイをチーム単位で行うのがポイントですね。

チームなので、お互いにゲームに対する意見がでやすく、テストプレイ後にも相談がしやすい関係になり、意見を受けてブラッシュアップを重ねることで、面白いゲームを作れるようになっていきます。ゲームを作る上では、色んな人の意見を聞くと言うのが重要なので、それが伝わるような仕組みで行っています。

福原:いわゆる、アナログゲーム制作ですね。シンプルな作品が多いのですが、中には凄く独創的な作品を作る人もいて、色々な驚きがありました。


――:例えば、どんな作品がありましたか。

松浦:粘土のコマを使った“立体すごろく”は、発想として面白かったですね。筒状の立体に、すごろくのマスとしてフックが取り付けてあって、そこに粘土を引っ掛けて先へ進むんです。


――:立体すごろくとは、なかなか出てこない発想ですね。グランプリは、どういったレギュレーションで行われているのですか。

三沢:開催期間は不定期なんですが、これまで2回実施して、今3回目の企画が上がってきているところです。応募者の中から参加者を抽選して、審査の結果グランプリに選ばれた人には賞金も贈られます。


――それはまた豪快ですね。

松浦:狙いはプランナー陣の成長なので、やっぱり本気で打ち込んでもらわないと意味がありません。成長のためには数を重ねるのが一番なのですが、デジタルで作ると短くても数ヶ月単位で(時間が)かかってしまうので、アナログゲームは企画の訓練に最適なんです。

 

■ゲームで大事なのは“面白さ”。細部まで追求する姿勢が最高のコンテンツを生み出す


――:皆さんがゲーム作りで意識されていること、心に据えていること、大切にされていることはありますか。

福原:特に「競合他社さんのタイトルと比べて優れているか」というのは、日々意識しています。過去の成功例を模倣するだけではなく、時流に合わせて行動する柔軟さも大切だと思っています。「今までずっとこうやってきた」という事は「それが面白いか」とは無関係ですからね。固執していると、飽きられてしまうだけだと思っています。


――:続いて、松浦さんはいかがですか。
 

松浦:私は新規にタイトルを立ち上げる機会が多かったので、ゲームの導入を特に重要視しています。例えば私が関わった作品は、プレイヤーさんがゲームを5分触った段階で「面白い!」と感じてもらうよう、設計を行いました。

その昔、コンシューマの会社で働いていた頃は「開始30分でプレイヤーの心を掴め」と言われてきました。対して、舞台がスマートフォンに移った現代では、冒頭5分の段階で「ダメだ」と思われたら、すぐにアプリを消されてしまいますよね。

それを無くすためには、細かな手触りや操作感にも配慮せねばなりません。“神は細部に宿る”とでも言いますか、そういった部分の配慮が、遊んでもらうために一番重要な事なのだと、僕は思っています。


――:三沢さんはいかがですか。

三沢:当たり前ですが、ゲームは「面白いこと」が一番大事です。ゲームのシステムなどはもちろん、隠されたキャラの一言が面白いとか、サプライズでイベントを行うとか、「面白い」にも種類があって、ちゃんと色々な種類の面白さを提供しようと思っています。それを行うには面白いってどういうことか理解できていないといけない。様々なコンテンツに触れて、自分が面白いと思った理由を分析するようにしています。それをゲームの中身もそうですが、ゲーム制作過程でのチームのやりとりの中でも試したりしています。


――:御社では、ゲームを作るときに何度も社内レビューを行うと聞き及んでいます。皆さんのお話を聞いて、その意味が分かったような気がします。

松浦:はい。フィードバック・ループが多ければ多いほど、作品の面白さは洗練されていきますからね。色々な会社を知っていますが、これほどレビューと意見交換の多い会社は聞いたことがありません。


――:そういった実情を聞くと、これから先の作品への期待が高まりますね。せっかくですから、皆さんが担当されている各プロジェクトの今後について、コメントをいただけますか。

福原:私が担当する『グランブルーファンタジー』は、もうすぐ運営開始から2年に入ります。プレイヤーの皆さんに楽しんでいただくのはもちろんのこと、スタッフの皆が楽んでゲームを作れる環境作りを目指していきます。一緒に仕事をしてくれているプランナーの皆にとって「グランブルーファンタジーに関わっていた」「この部分は自分が作った」という事実が、大きな実績になるよう、努力していきたいと思います。

松浦:新規プロジェクトの段階なので、スタッフも成長段階なのですが、最終的には皆がディレクターとして活躍できる人材に育ってほしいと、そう思っています。

三沢:自分のチームからディレクターを排出したい、という気持ちは松浦さんと同じです。今の目標は、自分の代わりになってもらえる人材を育成することです。私が松浦さんを見て「ディレクターってこういう仕事なんだ」と勉強することができました。自分も同じように、誰かの手本になるような仕事をしたいですね。


――:面接試験は、どのように行われているのですか。

松浦:基本的に面接をするのはマネージャー陣だけですね。各チームから「こういう人が欲しい」という要望を聞きつつ、要望に合う人材をリストアップしていきます。その後にプロジェクトマネージャーと調整をして、部署の割り振りを行う流れです。


――:皆さんが求める人材の人物像について教えてください。

福原:「ゲームを作りたい」という熱量が何よりも大切です。企画を温めてくすぶっている人や、誰にも負けないアイデアを持っている人でも、それを主張できなければ意味がありません。最近のゲームでは、リリース後の運用が主体になりますし、重要な業務になるので、継続して根気強く仕事に取り組む力も結構重要です。それが揃っている人は、かなり活躍できると思います。

松浦:そうですね。最終的にディレクターになるためには、自分が作りたい作品をしっかりとイメージする力が必要です。それを培うのは、やっぱり積極性なんですよ。
 

三沢:モノを作るのが好きな人がいいと思います。別にゲームじゃなくても良くて、だいたい「何かを熱中して作るのが大好き」という人は“作る快感”を知っているんです。それを追い求めていけば、ゲームを完成させることや、どんな仕事だってできると思います。


――:何か自分で立ち上げたイラストなりシナリオなり、ゼロから立ち上げてそれをきちんと完走した経験がある人は、確かに強いでしょうね。

三沢:途中で難しい障害も出てくるかもしれませんが、作ることに楽しみを見いだせる人はそれを乗り越えて行っていますね。Cygamesではゲームはもちろん、色んなことの挑戦していますから、多く人にとって楽しく仕事ができる環境になっていると思います。


――:本日はありがとうございました。
 
(取材・構成:編集部  原孝則)


■関連サイト