【インタビュー】チームの力を感じる時代に…Cygamesシナリオチームのサブマネージャー・坂本正吾氏が語る”今”シナリオライターに求められているものとは

『グランブルーファンタジー』や『Shadowverse』といったスマホ向けゲームの代表作を始め、『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』や『GRANBLUE FANTASY The Animation』などのアニメ、さらには漫画サービス「サイコミ」と、幅広い分野でコンテンツを展開しているCygames。
 
そんなCygamesには、各コンテンツの世界観や設定を支える独自のシナリオチームが存在する。Social Game Infoでは、これまでにも現マネージャーである大竹氏へのインタビューを始め、セミナーレポートなど複数の記事を掲載している。
 
今回は、2017年7月に行われたセミナーでも講演を行った、Cygamesシナリオチームのサブマネージャーである坂本正吾氏へのインタビューを実施。坂本氏が考えるシナリオの役割や作り方はもちろん、長年フリーランスとして活動してきた目線から”チーム”であることの利点や今後のシナリオライティングについてのお話を伺ってきた。
 
なお以前、行ったインタビューやセミナーレポートについては下記の関連記事を参考。
 
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■キャラを活かしたゲームシナリオの作り方



Cygamesシナリオチーム
サブマネージャー
坂本正吾氏
 


――:まず、Cygamesに入社されるまでの坂本さんの経歴をお教えください。
 
ライターデビューは30年ほど前で、最初はコンピュータゲーム雑誌でゲーム紹介記事などを書いていました。その後はフリーランスとして声優など様々な活動をしてきたのですが、20年ほど前からシナリオ関連の受注が増え、シナリオライターとしてやってきた形になります。
 
――: Cygamesに入社されたのはどういったきっかけだったのでしょうか。
 
正式に入社が決まったのは2017年1月だったのですが、実は2013年1月から非常勤のライターとして勤務していました。その間は週2~3日ほどの勤務だったのですが、共にお仕事をする中で流れとして自然に入社が決まりました。
 
――:選択肢としては他の企業に入る道もあったと思うのですが、その中でもCygamesを選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
 
長年、執筆業をしていると収益は二の次となり「たくさんのユーザーの目に触れるものを、なるべく多く作りたい!」という気持ちがとにかく強くなります。その機会が一番多くあるのがCygamesだと感じたので、ここで頑張りたいと思いました。
 
――:現在はどのようなことをされているのですか?
 
シナリオチームのサブマネージャーとして、各プロジェクトのサポートや相談役などをしています。また、ひとつのプロジェクトのシナリオリーダーも兼任しており、さらに自分でもシナリオを書いています。
 
非常勤ライターの頃はシナリオのライティングしかしていなかったので、今の立場に自分でも少し驚いています。もちろん、ライターである限り「自分のシナリオに集中したい」という気持ちはありましたが、「ぜひ坂本さんにお願いしたい」とお話をいただいたので、快くお受けしました。


――:ここからはライティングについてお伺いしていきたいのですが、坂本さんが考える「スマートフォンゲームにおけるシナリオの役割」とはどういったものでしょうか。
 
物語を伝えるメディアとして、代表的なものに映像があります。ただ、スマートフォンは画面が小さいので映像に情報を詰め込むのは難しいと思います。また、映像を見るのには単純に時間が掛かります。
 
対してゲームシナリオは”絵と言葉を併用した表現”で尺の圧縮に非常に役立ちます。移動時間やちょっとした隙間の時間でも、心に働きかけるシナリオを届けることこそ、この仕事の役割だと思っています。

 
――:ゲームシナリオを執筆される際にはどのようなことを意識されているのでしょうか。
 
キャラクターは生き物なので、活き活きと描く“ツボ”があります。執筆においてはこの見極めが重要で、乱暴な言い方をすれば、ストーリーが存在せずともキャラクターが活き活きと動いていれば見ている側は楽しくなると思います。
 
ストーリーテラーは、上空から俯瞰する形で組み立てるように書く一面があります。この説明をする時、よく“虫の目と鳥の目”という言い方をするのですが、俯瞰する目線が鳥の目だとすると、もっと小さな目線、つまり登場人物の気持ちを考えたときにシナリオの都合と矛盾してしまう場合があります。この立場が“虫の目”です。まずは、この両面を理解することが大切だと思います。そういう意味では、自分は声優として登場人物になりきっていた経験が“虫の目”を考える際には活きていますね。
 


シナリオライターには、何でも自由にできるというある種の神様的な一面もありますが、かといってキャラクターを自分勝手に動かしてはいけません。キャラクターを動かすためには、周りの環境を変えてあげなければならないんです。例えば、戦いたくない人とでも、大事な人が人質に取られていたら「戦うしかない」となりますよね。世界観とキャラクターの感情が矛盾しないよう、環境を整備してあげるのが私たちの仕事です。

 
――:ゲームシステムとシナリオの関係性についてはいかがですか。
 
シナリオにおけるゲーム仕様の重要度はとてつもなく高い位置にあります。仕様に合うものを探していかなければ必ずどこかで無理が出て煌めきが減ってしまいます。例えば、「アニメでよくいるキャラ」という“型”をそのままゲームに持ってきても、魅力を活かしきれない場合が少なくありません。“型”を発展させて、このゲームシステムにハマるキャラクターを探し出すのもシナリオチームの役割だと思っています。
 
その際、ひとつ基準になるのはキャラによって喋る“尺感”みたいなものです。一方的に喋る、または極端に口数が少ないキャラはシステム的にゲームに向いていません。また、ゲームには明確な目的がある場合がほとんどなので、その目的に何の興味も示さないキャラは登場させられません。何らかの理由があって興味を示さなかったんだという過程を描けるならこの限りではないのですが、川の種類に合わない魚を選んでしまうと活き活きとした様子は描けないという話ですね。

 
――:物語を書くにあたってポイントのようなものがあれば教えてください。
 
頭の中に“世界”をシミュレートできるかどうかが重要で、それができていれば物語の展開は自然に生まれると思います。シミュレートする世界では、たくさんの人が生活していて、その生活は頭の中にある世界の人にとっての真実です。だから、物語上でたった一言しか発しない人物であっても、発話者には過去があり思考があります。その一言で、キャラクターをいかに表現するか、ドラマをいかに表現するかが重要です。
 
――: Cygamesでは具体的な作業工程は、どのような流れで進められているのでしょうか。
 
プロジェクトによりますが、1つのシナリオを複数人で常に共有して執筆を続けています。常にチームで世界観の話をするというのが前提です。普段の小さな雑談の中にも「この世界のこの部分はどうなっているんだろう」という話をして、より造詣を深めるようにしているので、世界観の乖離も起こりません。
 
流れとしては、世界観がある程度固まったところで、担当からもらったプロットと世界観を照合して、世界観に対して無理のない形になるまで調整を続けます。そのやり取りを何度か続けて、調整が完了したら執筆の工程に進み、最後の監修を経て完成という形ですね。

 
――:そのほか、ゲームのシナリオを執筆するうえでのコツみたいなものはありますか?
 
「セリフの数がいくつ以上ならシナリオなのか?」という話があります。僕は2つ以上ならば、それはもうシナリオだと思っています。ですから、2つ以上あるときは、個々に並んでいるだけではダメで、2ワードでも3ワードでも、それぞれのコマ同士の繋がりを見出すことがソーシャルゲームシナリオのコツと言えなくもないかもしれません。 
 
ライターには、単発の一言をたくさん書くことが得意な人もいれば、逆に長い物語を作るのが得意な人もいたりと、それぞれに得手不得手があります。どれもコツを掴めば楽しい仕事ではあるので、好き嫌いせずに色々やってみるのが良いのではないでしょうか。
 


また、昔はライターから「自分はこういう物語を書くんだ!」という気持ちで作品を書いて提示するのが常で、自分から動くのが是とされる世界でしたが、今は“受け身”の時代だと思っています。僕らは毎週、ユーザーから膨大な数の意見をいただいています。その気持ちを汲んで最大限まで相手のためにシナリオを書くのが“受け身”のライティングです。ストレートな意見を正面から受け止めるのは怖くもありますが、これを見なければユーザーが求めているものを推し量れません。中には厳しい言葉もありますが、それをきちんと受け止めつつ、立ち上がって前に進める人が今後は生き残っていくのではないかと思います。
 
なので、シナリオチームのマネジメント側に求められるのは、強い言葉に晒されるライターさんを支えてあげることですね。それができないと、良い運営はできません。

 
――:坂本さんご自身は、厳しい言葉を投げかけられた時、どのようにして乗り越えられてきましたか?
 
時間が癒してくれるのを待ちました。当時は凄くショックで食べ物が喉を通らなくなるほどダメージを受けたこともあります。しかし、時が経ってから振り返ってみると、実際に自分の悪かった部分も見えてきます。たとえフリーランスという立場で先方の方針に従わざるを得ない部分があったとしても、外部からの見え方は変わらないので、受け入れるしかないと思いました。それが、自分の中で「すべてを評価として受け入れよう」と決める一種の儀式になったんです。
 
これは、ライターを長く続けている人なら一度は似たような経験をすると思いますので、ライターを始めたばかりで今後そういった厳しい状況に置かれて落ち込むことがあったら、それは通過儀礼だと思って「これで自分はライターとして成長した」と考えてほしいですね。

 
――:シナリオを書く仕事のやりがいはどういったところに感じられていますか?
 
これほど感動を生み出せる仕事は他にありません。本当に心に刺さった時のグワッと来る気持ちが分かる人なら、この感覚が伝わると思います。読み手にとって、心から幸せな一瞬を作り出せたという充実感。それが、何物にも代え難い、この仕事の喜びだと思います。
 
――:今後、ゲームにおける“シナリオ”はどのように変化していくとお考えですか?
 
多分、これからは“圧縮”の時代になります。既にその流れはできておりますが、今後も止まることはないと思います。ユーザーに求められているのは「短く、でも面白さは減らないように」です。端末のスペックとしては使える容量が増えておりますが、「もっと短い尺でユーザーを楽しませるべきだ」という気持ちを根底に持っていないと、今後の流れには付いていけないと考えています。
 
また、こういった点を踏まえて、他の部署と積極的にコミュニケーションが取れる人こそ、今後のシナリオライターには求められてくるのではないかと思います。尺の圧縮はシナリオ側だけで取り組める問題ではありませんので。

 
――:Cygamesとしては、チームで当たるということですね?
 
はい。1人でヒットを飛ばすのは、本当に難しい時代になってきていると思います。例えば、1人にすべてを任せて失敗したとして、その責任を個人の能力に求めるのは、少し乱暴な考えですよね。もちろん、個人でヒットを出す夢を追いかける道もありますが、皆でひとつの作品を作り上げるのも素晴らしい仕事です。シナリオライターの在り方は1つじゃない、ということを知っていただきたいです。
 
 

■個では越えられない壁を”チーム”として打ち破っていく

 
――:自社でシナリオチームを抱えていることについてもお話を聞かせてください。
 
そもそもコンシューマーが主流の時代は「書いたら終わり」が基本だったので、恒常的に“シナリオチーム”が必要になってきたのは、実は最近のことなんです。今の環境は非常に幸せなことだと思いますので、僕らはこれが継続するように頑張っていく必要があります。
 
チームも70人を超え、規模感もかなり大きくなってきているので、前例に頼らず、日々発明の気持ちで運用体制を作っています。最近では、他のチームとの連携レベルを高めることで、より精度の高い判断ができる構造を作るよう努力をしています。

 
――:実際、社内のチームを見られて印象はいかがでしょうか。
 
若手の方もいれば、ライトノベルの執筆などを経験されていた方もいて、能力についてはいろんな段階の人がいるという感じです。まだ親切に付いてあげる必要がある人もいれば、中には新人の枠を越えた実力の持ち主もいるので、人を見ながら臨機応変に対応する必要があります。
 
――:チームに入ってみて、フリーランスとして活動されていたときとの違いはいかがですか?
 
チームで情報を共有しながら仕事ができる環境が素晴らしいと思います。
 
正式にCygamesに入社する前、「こういう話を書こう」とプロットを立てて、必要な素材があるか、色々なセクションのスタッフに聞いて回ったことがあるんです。すると、各所で様々な情報に触れるにつれてプロットの内容が変化していって、最後には全然違うシナリオになっていました。
 
しかし、変化した企画は確実に最初のものより洗練されていて、良いものだったんです。そのクオリティは、フリーランスの自分個人では絶対に作れないものでしたし、冷静に「フリーランスの自分は、この会社にいる自分に勝てるか」と自問してみると、どう考えても勝てませんでした。そうした結論が出た以上、フリーランスでやることがお客さんに対して誠実な姿勢とは言い難いと、率直に感じました。時代の変化を強く感じさせられると同時に「自分の生き方を変えなければいけない」と感じるのに十分な出来事でした。

 


――:そんな中、2017年7月にはシナリオチームの採用セミナーも行われ、坂本さんが講演されたわけですが、印象はいかがでしたか?
 
開催してみて、Cygamesは外の方からは「もっとメカニカルにシナリオを作っているのではないか」と思われていたということが意外でした。確かにCygamesは業界の中では新しい会社なので美しい制作体制が組まれているとイメージされるかもしれませんが、実際、現場にいる人間は情熱勝負です。どれだけ誠意の塊をぶつけられるかと、チーム一丸となって泥臭く毎日頑張っていますよ。
 
ソーシャルゲームのシナリオライティングはCygamesで関わった業務が初めてでしたが、改めてこの仕事はいつまで経っても楽にならないなと思いました。キャラクターを正しく表現した一言のセリフをたくさん作るのは、まさに終わりのない穴掘りのようです。しかし、ここにかける労力を惜しむと勝負になりません。初めてこの仕事に就いた人には「この仕事は絶対に楽にはならないけど、反響はちゃんと来るからひとつずつ頑張ってやっていこう」という話をしています。他では体験できない仕事なので、これもやりがいに繋がる部分ですね。

 
――:実際、採用セミナーに来場された方からの反響はいかがでしたか?
 
非常に良かったと思います。セミナーではあまり綺麗事を言わず、苦しいことは苦しい、出来ないことは出来ない、と言っていたので誠意は伝わったのかなと。色々反響があった中でも嬉しかったのは、参加者の方から「御社はライターにとって理想的な環境に思える」と言っていただけたことです。もちろん、まだまだ向上の余地はありますので、より理想的な組織に近付けられたらと考えています。
 
――:好評を得られた要因はどういったところにあったのでしょうか。
 
実際に社内見学をしていただいたりもしたのですが、執筆をサポートする環境が整っていることを分かっていただけたのではないでしょうか。なるべく、ライター1人1人の気持ちに寄り添いたいと考えておりますので、たとえば落ち込んでいる人がいればケアできる環境を構築しています。そういった点を評価していただけたのではないかと思います。
 
――:チーム外も含め社内の雰囲気はいかがでしょうか?
 
分野を問わずに社内勉強会が開かれているのは特徴のひとつです。特にシナリオ勉強会は哲学的なことはあまり言わず、具体的に役立つ知識を共有する場にしています。他にもプランナーやデザイナーなど、それぞれの分野のスペシャリストが役立つ知識を集積しているので、現場全体の能力向上には非常に役立っています。こうしたサポートが受けられるのも、Cygamesに所属して働く魅力のひとつだと言えるかもしれません。
 
今後5年、10年かけて、より意識やテクニックを磨き上げ「あの会社に入ったらシナリオライターとして1段上に成長できる」と言われるチームを目指したいです。

 
――:これからシナリオライターを目指す人に向けて「これはやっておいた方が良い」ということはありますか?
 
僕のオススメとしては”雑貨屋さんを歩く”ことですね。面白いアイテムを見つけて、物からキャラクターの生活のパターンを想像するんです。
 
劇作の世界観は、どうしても劇作用に作られた世界になってしまうので、そこにリアリティを持ち込む場合、組み込むべきは生活感や価値観だと思います。日常にありふれた物から人の生活を想像するのは、それを考えるトレーニングになります。どんな世界にも生活があり、描かれない部分にも日常があるので、それを大切にすることで得られるものは必ずあると思っています。

 
――今後、ご自身がやってみたい事などがあれば教えてください。
 
Cygamesと聞くとファンタジー寄りの印象を持たれていることが多いので、今後はキャラクター作りに特化したセミナーや、分野ごとに分けたセミナーも開催してみたいですね。

あとは、働く方々の環境をしっかりと整えていきたいです。ライターとしての働き方は、大きく分けて3種類ほどあると思います。1つはフリーランスとしてバリバリ働く形。もう1つは、シナリオ受注会社にいて自分の生活サイクルに合った仕事をする形。最後は、Cygamesのような企業に就職して、一般的な生活サイクルで活動する形です。
 
今は仕事がたくさんあるので、どのスタイルで仕事をしても困らないと思いますが、Cygamesに「ここでなら安心して働ける」「最高のコンテンツが届けられる」という理想の環境を作ることに尽力したいと思っています。

 
――:本日はありがとうございました。
 
 
(取材・構成:編集部 山岡広樹)
(撮影:TAESOO KANG)

 
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